あっ、この季節

「しゅぱつ、シンコー!」

「しんごう、チューイ!」

「おおぎえき、2バンセン!」

電車の先頭の車両に、見習い運転士さんのこんな声がひびきわたるのは、12月ごろ。この声が、聞こえてくると、あっ、もうこの季節か、と思うようになった。

初めて聞いた時は、その声の大きさに驚いた。制帽の紐をきっちりと顎にかけ、緊張のあまり、微動だにしないで前を向いている見習い運転士さんの横には、指導役の先輩運転手さんが座っている。

細かな注意を受ける度の、「ハイッ」の返事の声も、また大きい。

はじめは、顔を見合わせてクスッとしていた車内の人たちも、やがて慣れてきて、本を読んだり、居眠りをし始めている。

 

「御影駅、3番線」

四月、見習い運転士さんは、運転士さんになって独り立ちしていた。

もう、あんな大きな声は出さない。

私は、まだ寒い頃に、車両いっぱいに響きわたっていた、あの彼らの声を、懐かしみながら思い出している。

こうして、たくさんの見習い運転士さんを眺めながら、季節を重ね、季節を見送っている。

そして、相変わらず、運転士さんのすぐ後ろのお気に入りの席で、締め切りに追われながらの原稿を書いている、ワタシ。

2024-3

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