今、神戸ゆかりの美術館(六甲アイランド)で「花森安治『暮らしの手帖』の絵と神戸」が開かれています。
初代編集長で、イラストレーターとして装丁もしていた花森安治さん(1911~1978)は、神戸(現在の須磨区生まれ)の出身ですが、案外知らない人の方が多いかもしれません。
特に、今回は、その驚くべき多才な仕事ぶりと共に、故郷・神戸への思いを取り上げているコーナーもあり、その原稿に思わず読みいってしまいました。
「暮らしの手帖」(当初は「美しい暮らしの手帖」)は1948(昭和24)年に、豊かで賢い暮らしを提案する”生活総合誌”として創刊されました。その時代には、まだ当たり前ではなかった冷蔵庫、洗濯機などの家電や日用品などの「商品テスト」が目玉の企画もあり、企業広告を一切載せずに斟酌(しんしゃく)や忖託(そんたく)などなしに、客観的で中立な批評がされていました。
花森が30年間担当して描いた表紙絵の、現存する原画153点の中から、今回は36点が出展されています。パステル、水彩やクレヨンなどの画材で描写された作品は、多様でこのまま絵本の表紙になるような愉しさです。因みに、クレヨンとクレパスの商品テストの記事も展示されていて、自分が幼い時につかっていたのはどれかなと、興味深く見ました。
国内各地を取材した連載「日本紀行」第一回(1963年)は、神戸が取り上げられています。
「明るくて、ハイカラで、すこしばかりおっちょこちょいで、底抜け楽天的で、それでいて必死に生きている」町、と神戸のことを書いています。
「暮らしを軽蔑する人間は、そのことだけで、軽蔑に値する」という花森の言葉どおり、「暮らしの手帖」は、名もない人たちのありのままの暮らしを記録し続けた雑誌でした。
しかし、それは、花森安治という伝説の編集者の高い美意識に裏付けされたものであった、ということを再認識させてくれる展覧会になっています。
3月14日まで月曜日休館◯078(858)15
2020/02/26号