末梢小型肺がんの気管支鏡検査

神戸低侵襲がん医療センター

呼吸器腫瘍内科部長 泰 明登

 

当院は、「小さく見つけてやさしく治す」を基本理念として、肺がんの診療にも力を入れています。肺がんが疑われる患者さんが受診された場合は、初診の日から精密検査を開始し、肺がんの診断確定、治療方針の決定まで、どこよりも速やかな対応を心掛けています。

肺がんは近年急速に増加しており、2018年の肺がんによる年間死亡者数は74,328人で、がん死亡の1位を占めています。肺がんの診断は、胸部CTが検診にも応用されるようになり、小さな肺がんも多く発見されるようになっています。しかし、肺がんは早い段階で転移をおこしやすいことが特徴です。2010年から2011年に診断された肺がん患者81,963人の病期は、Ⅰ期30,921人、Ⅱ期5,317人、Ⅲ期19,320人、Ⅳ期24,968人で、Ⅲ期とIV期を合わせた44,288人、全体の54%は、がんが進行してから見つかっています。

肺がんは、発生部位や組織型、がんの進行度によって治療方針が異なります。さらに近年、肺癌の個別化医療の流れが加速する中で、EGFR遺伝子変異の検出や、免疫チェックポイント阻害薬のバイオマーカーであるPD-L1発現の評価など、必要とされる検査項目数は増加しています。2019年の肺癌学会診療ガイドラインでは、遠隔転移を伴うIV期の非小細胞肺癌は、1次治療の前に、遺伝子検査(EGFR、ALK、ROS1、BRAF)を行い、その結果に基づいて治療方針を決めることが推奨されています。遺伝子検査を行う場合に使う検体は、気管支鏡検査による生検検体が76.9%と最も多く、手術切除標本が18.3%でした。

肺がんを確定診断するには、細胞を採取する目的で気管支鏡検査を行います。近年は、小さな肺がん(末梢小型肺がん)がCTで発見される機会が増えつつあります。しかし、通常の気管支鏡検査では、肺の奥(末梢)は気管支が非常に細いので、気管支鏡を末梢まで挿入して正確に生検することが出来ません。この問題を解決する方法として、気管支鏡の鉗子口から挿入できる非常に細い超音波装置で病変を確認する方法(気管支腔内超音波断層法:EBUS)が考案されました。さらにガイドシースという超音波装置より一回りだけ太い柔らかい管を装着して、超音波で病変の位置を確認した後には、そのガイドシースだけを残して超音波装置を抜去し、ガイドシース内に生検鉗子を挿入する方法(ガイドシース併用気管支腔内超音波断層法EBUS-GS法)で、末梢の小型病変に対しても正確に生検出来るようになりました。EBUS-GS法の利点は、同定した病変から生検を繰り返すことで高い診断率が得られること、出血が非常に少ないことです。欠点は、操作が複雑で検査時間がかかることです。これに対して、CTで作成した気管支鏡画像で標的病変までのルート案内をする、仮想気管支鏡ナビゲーション(VBN)を併用することで、検査時間を短縮させることが出来ます。当院では、末梢小型肺がんの気管支鏡検査では、EBUS-GS法とVBNを組み合わせた方法を標準的に用い、診断精度の向上を図っています。