前立腺癌のPSA検診

2017年本邦における前立腺癌罹患数は男性癌の中で第1位、91215人と推定され、死亡者数は2018年で第6位、12250人と推定されています。

2000年代の前半には、PSA検診による死亡率減少効果の確定的な証拠が得られていませんでしたが、2009年3月に欧米で行われていた2つの大規模研究の中間結果が公表されました。しかし、その結果は全く相反するものでした。

ERSPCは欧州7ヶ国182,000人を対象とした無作為化比較対照試験で、55~69歳を対象として9年間追跡した結果、検診群から214人、対照群から326人の前立腺がん死亡を認めました。その結果、対照群に比べた場合の検診群の前立腺がん死亡のリスク比は0.80 (95%CI:0.65-0.95)となり、統計的に有意な前立腺がん死亡率減少を認めました。

PLCOは米国内10施設による多施設共同の無作為化比較対照試験で、55~74歳を対象とし11.5年間追跡しました。7年目において前立腺がん罹患率は検診群で22%高かったが(リスク比1.22;95%CI1.16-1.29)、前立腺がん死亡リスク比は1.13 (95%CI:0.75-1.70)で、対照群との間で差を認めず、10年目においても同様の結果でした。

両者共に中間結果であり、追跡期間がまだ短いという問題点がありました。しかし、米国予防医学専門委員会USPSTFは、PLCO研究の結果を重視して「PSA検診は中止すべき」という勧告を出しました。日本でも厚生労働省研究班は、2つの研究結果をもとに「PSA検診の死亡率減少効果は不十分であり、対策型検診の実施は推奨していない。」と公表しました。これに対し日本泌尿器科学会は、ERSPCの研究結果によりPSA検診の死亡率減少効果は確立したとし、PSA検診を強く推奨しました。

その後,PLCO研究の再評価やERSPCの長期成績の報告等に基づいて,ようやく2017年にUSPSTFから55~69歳の男性ではPSA検診を推奨度C(個人の判断に基づく受診は妨げない)に引き上げました。さらに最近、検診群・コントロール群に関わらず、PSA検診を受けた群では前立腺癌死亡率が、欧州(ERSPC)と米国(PLCO研究)でほぼ同等に低下するという解析結果が報告されました(Ann Intern Med. 2017; 167: 449-55.)。

2020年10月、米疾病対策センターCDCは、この20年で前立腺がん全体の症例は減少しているが、遠隔転移のある前立腺がんの症例は逆に増えている報告しました。2003~2017年の間に、米国では総計308万7,800人が新たに前立腺がんの診断を受けており、年齢調整罹患率は、2003年の10万人当たり155人から2017年の105人に減少したことが判明しました。前立腺がんの進行度別に見ると、腫瘍が前立腺内に留まっている限局がん患者の割合が78%から70%に減少したのに対し、診断時に骨やリンパ節などに転移している遠隔転移がん患者の割合は4%から8%に増加していました。

遠隔転移のある前立腺がん患者がなぜ増えているのか。ハーバード大学放射線腫瘍学教授のD’Amico氏は、2012年にUSPSTFが、PSA検査による定期的な前立腺がんスクリーニングを不要とする勧告を出したことが原因だと述べました。彼によると、PSAスクリーニング中止の勧告は2018年まで撤回されなかったため、今後も遠隔転移がんの増加傾向が続き、増加が横ばいとなり減少に転じるまでには、あと数年はかかる見込みである。男性はPSA検査を受けるべきで、PSA値の上昇が認められた場合には、さらに詳しい検査や治療が必要かどうかを、泌尿器科医と相談すべきであるとの考えを示しました。

当院も、前立腺癌のPSA検診を実施しています。もし、前立腺癌が発見された場合には、強度変調放射線治療IMRTや定位放射線治療SBRTなど、最新の放射線治療で切らずに治療しますので、いつでもご相談下さい。