神戸低侵襲がん医療センター
病院長 藤井正彦
新型コロナウイルスによる感染が、再び流行しています。そこで今回は、諏訪赤十字
病院の森光玲雄先生が監修された資料をご紹介します。新型コロナウイルスとの戦いは長期戦になるかも知れませんので、みんなで乗り越えていくための参考にして下さい。
新型コロナウイルスが怖いのは、「3つの感染症」という顔があることです。知らず知らずのうちに、私たちも影響を受けていることをみなさんはご存じですか?
第1の感染症は、病気そのものです。このウイルスは、感染者との接触でうつることが分かっています。感染すると、風邪症状や重症化して肺炎を引き起こすことがあります。
第2の感染症は、不安と恐れです。このウイルスは見えません。ワクチンや薬もまだ開発されていません。わからないことが多いため、私たちは強い不安や恐れを感じ、ふりまわされてしまうことがあります。それらは、私たちの心の中でふくらみ、気づく力・聴く力・自分を支える力を弱め、瞬く間に人から人へ伝染していきます。
第3の感染症は、嫌悪・偏見・差別です。不安や恐れは、人間の生き延びようとする本能を刺激します。そして、ウイルス感染にかかわる人や対象を日常生活から遠ざけたり差別するなど、人と人との信頼関係や社会のつながりが壊されてしまいます。
なぜ、嫌悪・偏見・差別が生まれるのか?見えない敵(ウイルス)への不安に対し、特定の対象を見える敵と見なして嫌悪の対象とする。この嫌悪の対象を、偏見・差別し遠ざけることで、つかの間の安心感が得られる。敵はウイルスなのに、敵がすり替わってしまい、本当の敵を見なくなるのです。
特定の人・地域・職業などに対して、「危険」「ばい菌」といったレッテルを貼る心理によって、差別や偏見がおこります。例えば、医療従事者の子は登園しないでほしい、○○病院は危ないらしい、△△地区は危ない、マスクをしてないなんてありえない、咳をしているあの人コロナかも、このように差別の樹が育っていくのです。
3つの感染症は、どうつながっているの?第1の感染症「病気」は、未知なウイルスで、わからないことが多いため、第2の感染症「不安」が生まれます。人間の生き延びようとする本能により、ウイルス感染にかかわる人を遠ざけるため、第3の感染症「差別」が生まれます。差別を受けるのが怖くて、熱や咳があっても受診をためらい、結果として第一の感染症「病気」の拡散を招くことになります。
このように、この感染症の怖さは、病気が不安を呼び、不安が差別を生み、差別がさらなる病気の拡散につながる、負のスパイラルで感染症が拡がることです。この感染症をふせぐために、私たちはどのような工夫が出来るでしょうか?
第1の感染症「病気」をふせぐために、「手洗いをしっかり」「マスクの着用などの咳エチケット」「密集・密閉・密接の3つの密を避ける」「人との距離をとる、ソーシャル・ディスタンシング」など、一人一人が衛生行動を徹底しましょう。
第2の感染症「不安」に振り回されないために、まずは自分を見つめて、気づく力を高めましょう。ウイルスに関する悪い情報ばかりに目が向いていませんか?いつもの自分と違うところがないか考えて、聴く力を高めましょう。自分の安全や健康のために必要なことを見極めて、自ら選択して、自分を支える力を高めましょう。
第3の感染症「差別」をふせぐために、確かな情報を広めましょう。差別的な言動に同調しないようにしましょう。治療を受けている人とその家族、医療従事者、日常生活を支えて社会を支えている人など、皆さんそれぞれの場所で感染を拡大させないように頑張っています。この事態に対応しているすべての方々をねぎらい、敬意を払いましょう。
このように、新型コロナウイルスは、3つの感染症という顔を持って、私たちの生活に影響をお呼びします。それぞれの立場で出来ることを行い、みんなが一つになって負のスパイラルを断ち切りましょう。
(出典:日本赤十字社新型コロナウイルス感染症対策本部.2020年3月26日初版)