リツイートで名誉毀損

著名なジャーナリストが、ツイッターの投稿で名誉を傷つけられたとして、投稿者とリツイートした人を相手に慰謝料などを求めた裁判の判決が先日東京地裁でありました。裁判所は、リツイートは「フォロワーに対し、ツイートの内容に賛同する意思を示しておこなう表現行為」であるとして、投稿のみならずリツイート行為にも名誉棄損の成立を認め、慰謝料の支払を命じました。
 地裁判決であり、先例性が必ずしも高いものではありませんので、今後同種の案件で同様の判断が続くとは言い切れませんが、リツイートという手軽な、他者への賛同行為だけでも名誉棄損が成立すると裁判所が判断したことは注目に値します。
表現の自由は、憲法が保障する人権の中でも最も大切なもので、民主主義の根幹をなすものです。公権力に対する批判的言論が封殺されるような事態は、断じて避けなければなりません。
しかし、私人についての表現行為については、対象となった人の名誉や名誉感情、プライバシーなどとの調整を図る必要があります。個人が広く発信することが容易になった今こそ、批判や非難によってかりそめの優越感に浸ったり浅薄な正義感を満たしたりしようとしているだけではないのか、厳しい自己検証が必要になります。対象の社会的評価を低下させたり、名誉感情を害したりすることなくその言動を批判することは十分可能なはずです。
この件の被告の方々が、どういう背景を持ち、どのような思考を経て名誉棄損的な行為に及んだのか私は知りませんが、昨今、SNSやニュースサイトなどでは、「叩く」ことだけを目的としていると思しきコメントが散見されるやに聞き及んでいます。表現の自由はそのような行為を保障するものではなく、闊達な意見交換を通じて互いの人格を高めあい、主体的な個人による成熟した社会を作るために認められているものです。このコーナーでの発信行為も含め、そういう趣旨に適う表現行為が出来るよう、引き続き研鑽を積んでまいります。本年もよろしくお願いいたします。
2021-12

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