認知症徘徊事故訴訟に思う

認知症が進んだ高齢の男性が、家族が目を離したすきに1人で外出し、電車にはねられたことで列車の遅延等の損害が生じたとして、JR東海が男性の妻と長男に対して損害賠償を請求した事案について、先日、最高裁は、妻や長男には責任はないとする判決を出しました。
この判決は、妻や長男は、男性に対する法定の監督義務者にはあたらないことを前提に、妻については自分自身が要介護認定を受けていたことを、そして長男については週末に男性宅に寄っていただけであることを主な理由として、その責任を否定しました。この判断自体は、個人的には極めて妥当な結論であると考えています。
しかし、判決の書きぶりからすると、たとえば長男が休職して、毎日男性の面倒を看ていたという事案であれば、長男に責任を認める余地も十分あるように読めます。自ら積極的に親の監督を引き受けた以上、それは当然なのかも知れません。
しかし、より積極的に親の面倒を看ようとした人こそが大きなリスクを負って、知らん顔をしていた人ほど責任を免れやすいというのでは、親の面倒を看ることに消極的な雰囲気を助長してしまうようにも思えます。
私見ですが、高齢化社会というのは、老人が増えたというよりも、若者が相対的に減ったことにその本質があり、これは、ある意味、その場限りの経済優先政策のツケであると筆者は考えています。
もしそうであるならば、介護の問題も、世帯に押し付けるだけではなく、社会全体で考えるべき問題といえるでしょう。保険制度の充実等、JRだけでも家族だけでもなく、損害を広く分担する仕組みが必要ではないでしょうか。

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兵庫県弁護士会所属  弁護士  佐々木  伸

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