近年、日本のものづくりの根幹を支える「金型」の保管をめぐって、異様な状況が明らかになっています。すなわち、下請社が完成品を納品したにもかかわらず、そのまま無償で長期間預からされているという実態です。
これは、言ってしまえば「業界の慣習」ということになるのかも知れませんが、元請社が優位な立場を利用して下請社に莫大な管理コストを負担させるものであり、公正な商慣習であるとはとてもいえません。
また、莫大な保管コストのみならず、もし火災や水害などで金型が破損した場合などには、下請社が損害賠償責任を負うリスクさえあります。
さらに厄介なのは、元請社に引取の意思がなく、下請社からみれば、処分も返還もできない状況に陥ることです。
もっとも、このような場合、下請社が元請社に対して、一定期間内に引き取りがなければ処分する旨を記載した通知を内容証明郵便で送るなどすれば、処分に対するリスクを低減することができます。
とは言え、元請社から仕事をもらっている下請社からすれば、このような強硬手段はなかなか取りにくいところだと思います。
公正取引委員会もこの問題を重く見ており、2023年には金型の無償保管や引き取り拒否について、独占禁止法上の「優越的地位の濫用」に当たる可能性があるとして、是正を促す報告書を公表しました。元請社が地位を利用して不当に下請社に負担を押しつけていると認定されれば、法的な責任が問われることになります。
もちろん、この方法でも結局のところ、公正取引委員会に申立をしないといけないわけですから、元請社と対立することになるのですが、委員会が介入してくれる点において、多少、プレッシャーは回避できるのではないでしょうか。
2025-8