春の七草と言えば、多くの人が「セリ・ナズナ・ゴギョウ・・・・」と名前を知っていて、なじみがあるものが多い。でも、秋の七草はあまり知られていない。ハギ・キキョウ・クズ・フジバカマ・オミナエシ・オバナ・ナデシコである。オバナは聞きなれないが、ススキの花である。キキョウやナデシコは野草としてではなく、園芸種で栽培され見かけることが多い。

最近注目され、各地で植栽されているのがフジバカマである。背丈は1mほどで、9月から10月に淡い桃色~うす紫色の小さな花を房のように多数つける。万葉集にも詠まれ、古くから日本人に親しまれた多年生のキク科の野草であり、湿った草原やまばらな林に自生していた。最近では自生に適した環境が減少したため絶滅危惧種に指定されている。販売されているものはサワフジバカマが多いという。ほのかにいい香りがするので「香草」とも呼ばれる。

フジバカマの花が咲くとアサギマダラというチョウが吸密にやってくる。アサギマダラは羽を広げると10㎝ほどの大きなチョウで、浅葱色(薄い藍色)の斑(まだら)もようの羽をゆっくりはばたいて飛ぶ。春から夏にかけては本州の標高1000m~2000m級の高原で過ごし、秋になって気温が低下すると南方の沖縄や台湾に渡っていく。海をこえて1000㎞~2000㎞も移動することが分かっている。南方の島で新たに繁殖した世代が、翌年の春から初夏に北上し本州の高原に戻ってくる。こんな不思議な生態が分かったのは各地で行われているマーキング調査の成果だ。捕獲したアサギマダラに油性マジックで「月日」と「地点」を書いて放す。マーキングされた個体を捕獲したら報告するという調査研究が行われ、渡りのルートが明らかになってきた。「アサギマダラを調べる会」などがまとめている。

我が家の隣にある防火水槽の用地に近隣の人がフジバカマを植えたのは10年ほど前だった。今年も花が咲き、南方に旅をする前のアサギマダラがやってきて蜜を吸っている。

2022-10