介護が必要になった人の生活費、介護施設の入居費などの支払原資に、ご本人の現金・預金がファーストチョイスになることは言うまでもありません。
ところが、その人が認知症になり、預金口座の管理ができなくなってしまうと、そうはいきません。すなわち、金融機関は無関係な第三者が預金を引き出すリスクを回避するため、原則として本人しか預金を下ろせず、介護を担う子どもなどが引き出そうと思っても、基本的にはNGという扱いをしていることがほとんどなのです。
こういう事態のために、民法では成年後見人という制度を設けています。もっとも、成年後見人は、そもそも申立をしてから選任されるまでに時間がかかりますし、選任後も手続が厳格で、必ずしも迅速な資金需要に対応できないという問題点があります。
そこで、昨年2月、全国銀行協会(全銀協)は、「極めて限定的な対応」であり、「成年後見制度の利用を求めることが基本」としつつも、「診断書等で本人が認知判断能力を喪失していることを確認」した上で、「本人の利益に適合することが明らかである場合」に限り、出金依頼に応じることが考えられる、などとする指針を発表しました。
もっとも、全銀協の指針は各金融機関を法的に拘束するものではありませんので、取扱は金融機関によって異なります。筆者が金融機関のホームページを確認したところ、本人が来店できなくなった場合、預金者本人による事前申込により登録された代理人が各種手続きを行えるとする金融機関もありました。
事前の登録が必要ということになれば、「おばあちゃんが認知症になったときに備えて私を登録しておいてね。」的な話が認知症になる前に必要となるわけですから、依然としてそれなりにハードルは高いといえますが、それでも成年後見を申し立てるよりは簡便です。認知症になる確率と併せ考えると、ご家族で一度話し合ってみる価値は十分あると思います。
2022-5