侮辱罪の厳罰化

刑法231条に、「事実を摘示しなくても、公然と人を侮辱した者は、拘留又は科料に処する。」との規定があります(侮辱罪)。拘留とは30日未満の作業義務のない自由刑で、科料とは1万円未満の財産刑ですので、現時点では、刑法で規定されている犯罪の中で、最も法定刑の軽いものになります。これは、侮辱という行為が、単に「バカじゃないの?」というような個人の意見に類するものも含まれ、これで被害者の社会的評価が大きくは損なわれないと考えられているからです。
しかし、近年、インターネットの普及により、一般人が、「公然」と意見を表明することが容易になっています。しかも、その「公然」の範囲が広がっており(極端にいえば「全世界」ということになります。)、単なる侮辱行為によっても、被害者の社会的評価が損なわれる程度は、インターネット以前とは比べ物になりません。
そこで、現在、侮辱罪に懲役刑を導入しようという議論がされています。上記のような社会的背景に照らせば、厳罰化はやむを得ず、何ら問題がないと思われる方も多いと思います。
しかし、「バカじゃないの」はともかくとしても、たとえば閣僚や国会議員に対して、「非常識甚だしい」とか、「世間知らずゆえの浮世離れした思考回路である」いった表現で批判したとしたらどうでしょう。これが侮辱罪として懲役刑にかけられる可能性があるなら、政府与党に対する批判的言論は委縮してしまいます。言論の自由は民主主義の根幹をなす重要な人権ですから、これを制限する方向の議論には、慎重な姿勢で臨む必要があります。
個人的には、自分を安全な場所において匿名でする表現行為を保護する必要性は低いと感じており、また、匿名であるがゆえに侮辱的表現を使うことに躊躇がなくなっていると考えられるので、インターネットの匿名性に対して何かしら手を入れた方が本質的な解決につながるのではないかと考えています。みなさんも、これを機会に、インターネットによる表現の自由について、一度考えてみてください。

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