はんこ文化

日本では、署名よりもはるかに冒用が容易な「はんこ」に対して、なぜだか絶大な信頼が寄せられています。法律上も、最高裁判例と相まって、「ある文書に文書作成者本人の印鑑が押されていれば、その文書は本人が作成したものと推定される」という強力な効力がみとめられています。

しかし、このような押印の慣習が、コロナ禍でテレワークが推進されている中で、円滑な取引の妨げになっているのではないか、という指摘がされています。確かに、押印がなければ契約が有効に成立しないのであれば、そういう向きもあるかも知れません。

もっとも、契約書に押印がなくても契約書の効力そのものには影響はありません。そもそも、契約書がなくても契約自体は有効に成立する契約類型がほとんどです。契約書も押印も、そういう内容の合意が成立したことを示す「証拠」のひとつに過ぎませんので、電子メール・録画録音等、他の方法で証明ができるのであれば差し支えありません。

また、そういう証明の一手段として、「電子署名」というものがあります。これは、「電子文書につき、電子署名の仕組を提供する業者(認証業者)において、暗号技術を用いて、その電子文書の作成者が誰かを示し、また当該文書が改変されていないかどうかを事後的に検証できるようにする仕組み」のことをいいます。電子署名法という法律によって、一定の要件を満たした電子署名が付された電子文書については、民事訴訟において押印がある文書と同等に扱われています。

このように、必ずしもアナログの押印がなくても取引を円滑に進める方法は存在します。文書に対する信頼度には心理的な影響も大きく、長年根付いた慣習を乗り越えるのは難しいかも知れませんが、合意の重要性等に応じて、柔軟に対応することは(コロナ禍とは関係なく)是非検討していただきたいと思います(なお、政府は、令和2年6月19日に「押印についてのQ&A」を公表しています。非常にわかりやすいので、ぜひご参照ください。)。

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