国内屈指の名門校
灘中学・灘高等学校(昭和三年創立)
中・高完全一貫で、教師が担任団を結成し六年間持ち上がる。
各界に幾多の人材を輩出してきた同校の教育方針を校長・和田孫博先生に伺った。
日本の未來を担う人材が
ここから大きく羽ばたく
「精力善用」
「自他共栄」
これが灘校の校是です。
「精力善用」とは、自身の力を最大限に使い、社会に向け善い方向に用いること。
「自他共栄」とは、自分の個性だけでなく他者の個性も活かし、共に幸せになるよう努めること。
各自が「精力善用」を実践しみんなの力が合わされば、幸福な世の中に繋がると、話すのは同校の和田孫博校長です。
本校是は、同校創立時に顧問であった講道館柔道の祖である嘉納治五郎氏が柔道の精神として唱えた言葉でもあります。
嘉納治五郎先生直筆が掲げられた柔道場
野依良治ノーベル賞受賞者の名前を発見
柔道の祖として有名な嘉納氏ですが、学習院教頭、第五高等学校校長、東京高等師範学校校長を歴任した教育家でもあり、自身で、理想の学校を創設しようとしていましたが、さまざまな要職を兼務し、多忙を極め断念したという逸話があるほどです。
灘五郷の酒造家有志が同校を創立しようとした際に、その中の一酒造家である嘉納家の親戚であった治五郎氏に顧問を依頼。治五郎氏は快諾し、本校是が定められ、今日まで灘校の建学の精神として受け継がれています。
同校は、一学年に約220人足らずの生徒しかいないにも関わらず、国内外でさまざまな分野において頭角を現す卒業生がたくさんいます。ただ学力が優れているだけでなく、知力、人間力が高いのは、この校是が教職員、生徒にも活かされているからかもしれません。
嘉納氏の精神が受け継がれているところは、まだまだありました。
学生たちの何気ない会話から学問の探求が始まる
(廊下にある黒板)
●灘校のグローバル人材の育成
嘉納氏は、1909年(明治42年)には日本人初のIOC(国際オリンピック委員会)委員となり、幻となった1940年(昭和15年)の東京オリンピック招致に成功したのは、彼の英語でのスピーチが素晴らしかったからと言われています。また、彼は、日米関係が悪化する中、英語教育縮小(廃止)を求める世論の高まりに、自ら日本英語協会会長に就任するなど、真の国際人でした。
そして、和田校長は、世界の国々が自国の得意分野で切磋琢磨することが、世界の幸せに繋がると考えれば、「精力善用」、「自他共栄」の精神は、世界平和に通ずると言い、「英語を教えることだけがグローバル人材育成ではない」ときっぱり。
登録有形文化財の本館
●中高一貫6年教育
子どもから大人になる13歳から18歳。人間として成長する幅が大きいこの時期に、同校では、一つの教育 理念の下で学び、また、数名の教師が担任団として6年間を持ち上がり、心の成長を見守れる教育制度を設けています。
図書室の上の緑地。
天井からの採光、丸い本棚、木の机と椅子…。
しゃれた図書館
学習面での一貫教育のメリットは、中高の枠を取り払い年齢に合わせた学びのカリキュラムを設定できることです。中学時に繰り返しが必要な学び、例えば暗唱や演算的なものを多く取り入れ、高校時には、それを幅広く深めていくようにしています。
このカリキュラムこそが、想像力を豊かにし、発想力を高めていく灘独自の正にリベラルアーツです。また、今年はコロナウイルス感染対策のため、約3ヶ月休校になりましたが、6年のスパンで考えると、慌てずとも十分調整ができます。休校期間中のオンライン授業も各学年担当者が生徒ファーストの姿勢で、工夫を加えて行いました。
■和田校長に子育てのアドバイスをお願いしました。 子どもには各々の個性があり、その個性にあった育て方があります。その見極めに努めながら子どもの好奇心の芽を摘まず、気長に待ち、その好奇心から自主性を育ててください。
また、無理やりすすめるのではなく、本を読む機会を多くつくってください。文字だけで場面を想像する力を養い、嬉しい、楽しい、悲しい、辛いなど、追体験して欲しい。
そうすることにより、人の書いた文章の内容を的確に判断できるようになる、そして「精力善用」を実践できる準備となります。